疑似体験

10月、12月、1月に続いて、今月も実家に帰る。
オトンが亡くなって、オカンひとりになった実家に帰る。
そんなオカンから最近、メールが届いた。
これまで携帯の操作が、からきし出来んやったオカン。
亡くなるまでオトンが使いよったらくらくホンで、初めてメールをくれた。
「だいじょうぶです はじめて、めーるします。」
なんでも、大分在住のオカンの妹さんと会ったときに教わったらしい。
まあ、その1回きりで、2度めのメールはいまだ届いとらんのやけど。
まだあ? オカン。
「おもしろいね」って言うて、ようやく携帯に興味を示しだしたオカン。
ならばと、らくらくスマートフォンに変えてあげようかと姉貴と相談中。
実機を触ってみたけど、同じらくらくでもスマホの方が使いやすそうで。
でも実はいま、オカンはちょっとした病気を患って入院中。
ちょっとした手術をすることになったわけで。
幸いにも、それほど心配するほどのことでもなさそうなんでよかったけど。
オカン初めてのメールは、入院中のベッドの上から送ってくれた。
大分から妹さん夫婦がお見舞いに来てくれたわけで。
なので、いま実家には誰もおらん。
俺が実家に帰っても迎えてくれる人は誰もおらん。
とうぜん今回は、実家でひとりきりで過ごして、ひとりきりで眠る。
35年前に、家族4人+猫2匹で暮らし始めた、いまの実家。
25年前に、俺が進学で出ていって3人になり、
15年前に、姉貴が結婚して2人になり、
いつのまにか、犬も猫も鳥もおらんくなり、
去年、オトンが亡くなって、オカンひとりになった実家。
いまはまだ、退院すればオカンが帰ってくる。
でも、いつかオカンが死んだら、本当に実家には誰もおらんくなる。
自然の摂理として当たり前のことなんやけども。
いつかはそうなると、ぼんやりと頭では分かっとったんやけども。
今回の帰省は、なんだかその疑似体験みたいになることに、はたと気付いた。
まだオカンがおるけ帰る。
けども、オカンが死んだら俺はそれでも実家に帰るんやろか。
俺が帰るのを待ってくれとる人がおらんくなる。
それでも、俺はたまに実家に帰るんやろか。
オトンとオカンにも、昔は帰るところがあって。
やがて帰るとこがなくなって。
でも、そのかわりに誰かが帰ってくるとこになったオトンとオカン。
いつかオカンが死んだら、やっぱり、たぶん、俺には帰るとこがなくなる。
だからといって、オトンとオカンみたく誰かが帰ってくるとこになるわけではなくて。
ただ、帰るとこがなくなる。
今回の帰省で、たぶんそれを実感する。

